MutoAlpacaと人生を豊かにする作品たち

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「生きねば。」――「生きる」って何だろう?『風立ちぬ』の考察

宮崎駿監督作品『風立ちぬ』観に行きました。

生きねば。

メインテーマの「生きねば。」という文字が非常に印象強い。

題名の『風立ちぬ』と、テーマである「生きねば。」は、
映画冒頭で紹介される詩の一説が由来だそうで。

Le vent se lève, il faut tenter de vivre

風立ちぬ、いざ生きやめも
(「風立ちぬ(小説)―Wikipedia」参照)

後半部分を直訳すると、「生きることを試みなければならない」となるらしい。

では、「生きること」とはどういうことをいうのか。

“「生きる」って何だろう?”をテーマに、『風立ちぬ』を考察してみます。

※ストーリーのネタバレがあるので、まだご覧になってない方は注意してください※

作品の時代背景

予告編を見ると、作品の時代背景が東京大震災から第2次世界大戦へ、
「まことに生きるのに辛い時代」に置かれていることがわかります。

3.11の東日本大震災を経験した、我々の世代にとって、
「生きること」は非常に大きなテーマで、強いメッセージの込められた作品なのでしょう。



さて、では『風立ちぬ』の登場人物は、どの様にこの辛い時代を生きているのでしょうか。

「美しさ」に生きる登場人物

『風立ちぬ』では「美しさ」がひとつキーワードになっています。
登場人物たちが、それぞれの「美しさ」を追い求め、「美しさ」に生きる、
まるで「美しさ」が最上といわんばかりの価値基準が形成されています。

物語としては、大きく2つの「美」が描かれています。

1.美しい飛行機を設計するという夢に、純粋にまっすぐ進む主人公・堀越二郎
2.二郎とヒロイン・里見菜穂子の初々しく美しい恋愛模様。

しかし、これらの「美」は単に美しいだけの存在ではありません。


二郎が設計した美しい飛行機は、大量の爆弾を積み、多くの人命を奪う兵器となる宿命を負っています。

菜穂子は母を結核で亡くしており、自身も同じ病気を患っています。

未来の二郎との生活のため、高山での孤独な療養に病気の完治を懸けるか、
限られた時間を、愛する二郎と共に過ごすか。

自身に忍び寄る影を悟ったのでしょうか、菜穂子は後者を選択し、
二郎も菜穂子の選択を受け入れ、共に過ごすことを決意します。

「お前のは愛情じゃなくてエゴイズムじゃないのか!?」
二郎の上司のセリフですが、観ているこちらも思わず頷いてしまう問題です。

それにも「覚悟してます」と返す二郎。


2人は、限られた時間の中、今を精いっぱいに生きています。

その生き方自体が、美しいと論じることもできますが、
当時の時代背景について、パンフレットにこうあります。

私達の主人公が生きた時代は今日の日本にただよう閉塞感のもっと激しい時代だった。関東大震災世界恐慌、失業、貧困と結核、革命とファシズム、言論弾圧と戦争につぐ戦争、一方大衆文化が開花し、モダニズムとニヒリズム、京楽主義が横行した。詩人は旅に病み死んでいく時代だった。

この時代を考えたとき、2人の生き方は本当に強いものだったのか。
「美しさ」を求めるという生き方は、閉塞感ただよう時代を反映しているものではないのか。

未来のために、今を一生懸命生きることは良いことだと思いますが、
今のための今を生きることが、良いことなのか正しいことなのか、ボクは疑問です。

結論

物語の結末としては、戦争の敗北と共に、二郎は追い求めた夢も愛も失ってしまいます。
それは、つまり「生きる」意味を失くすことと同じです。

クライマックスシーン。
夢と思われる世界で、二郎に、菜穂子は優しく語りかけます。



「あなた生きて」



...結論として、

『風立ちぬ』は、大きなテーマを扱っていることは間違いないですが、
それを明確に描き、訴える作品ではありません。

登場人物の生き様を通して、「生きる」とはこういうことだと示す作品でもありません。

答えを求めてしまうと、物足りないと感じてしまうかもしれません。

「生きる」って何だろう?という問いの答えは、
生きる意味を失うも、菜穂子に「生きて」と語りかけられた二郎が、
混迷の時代を経て、どの様な一歩を踏み出すのかというところにあり、
映画のクライマックスで描かれた、先の世界にあります。

何のために生きるのか
何が正しい人生なのか

かつて、日本で戦争があった。

大正から昭和へ、1920年代の日本は、
不景気と貧乏、病気、そして大震災と、
まことに生きるのに辛い時代だった。

(パンフレットより引用)

今も、戦争は続いている。

20世紀から21世紀へ、新世紀の世界には、
不景気も貧乏も病気も、自然災害も
未だに存在しており、
果たして生き易い時代といえるのか。


『風立ちぬ』という映画は、時代も国境も越え行く
「生きること」という根本的な問題を提起した
普遍的な名作である。

そして、

「あなた生きて」というセリフは、
どんな生き方だろうと、「生きること」はそれ自体が尊いという
絶対的な価値感が示された、名言である。


最後に、

「生きねば。」


何のために「生きる」のかということを忘れず、
「生きること」を試みていかなければ。


こんなメッセージを感じ取った、映画でした。